税務調査は交渉次第で結果が変わるものですので、時には国税に譲歩をすることも重要になります。
この譲歩については、例えば税務調査の結果、当初指導された追徴税額を小さくする代わりに、 グレーな部分について、国税内部で評価される重加算税の賦課決定を一部認める、といったことが挙げられます。
このような交渉は税務調査の際よく見られますが、あまり主張されないものの高い効果がある譲歩として、即納することの申出があります。
国税は縦割り行政ですので、税務調査を行うなど税金を課税する部署(賦課部門)と課税された税金を徴収する部署(徴収部門)にはほとんど交流がありません。
しかしながら、税務調査の終了の際は、調査による追徴税額の納付見込みについて、賦課部門は徴収部門に連絡をし、場合によっては分割納付の相談の仲介をするように指示されています。
とりわけ、大口の不正取引が見つかった場合などに行われる幹部職員を集めた重要事案審議会においては、調査先の納税見込みが芳しくない場合、徴収部門の幹部職員にも調査内容を説明することになっています。
この場合、税務調査の担当者は、今後の徴収部門の差し押さえなどを見越して調査先の財産の状況などもチェックしておく必要がありますので、納付見込みについても調査官はきちんと精査しなければならないのです。
実際のところ、多額の不正取引を追うマルサなどの部署は、単に不正取引があるだけでなく、納税を踏まえ、不正取引の結果プールされている預金などの財産(「溜まり」などと言います)が多くなければ動かない、などとも言われていました。
溜まりがあればそれで納税させることができますが、なければ捜査に見合う納税がなく、実益に乏しいからです。
以上を踏まえると、仮に不正取引があったとしても、それに見合う納税がすぐにできるのであれば、国税の手間も小さくなりますし、税務調査で発生する国税のコストも補てんできますから、納税が困難な場合に比して、国税としては大いに満足できる結果となり、心証も良くなります。
このため、不正取引を行った場合はもちろん、国税ともめるグレーな論点についても、調査官の譲歩を得るために、 「仮に、(納税者の主張を)認めてくれれば即納します。」 と言って国税に対して誠意を見せるのが、非常に優れた交渉になり得ます。
実際のところ、資料の保存が十分でないため推計的に課税されそうになった税務調査事例について、国税に納税できる範囲内の金額を指定し、その金額で税務調査を終了してくれるのであれば指定日に即納すると申し出たところ、担当した調査官は推計の計算を調整することで、私の申し出た金額を認めてくれました。
その際、「即納いただくという話でしたので(認めます)」という話をただきましたから、この申出は確実に行うべきと考えられます。
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著者
元国税調査官・税理士 松嶋 洋
平成14年東京大学卒業後、国民生活金融公庫(現日本政策金融公庫)、東京国税局、企業税制研究所(現日本税制研究所)を経て、平成23年9月に独立。
現在は通常の顧問業務の他、税務調査対策等のコンサルティング並びにセミナー及び執筆も主な業務として活動。とりわけ、平成10年以後の法人税制抜本改革を担当した元主税局課長補佐に師事した法令解釈をフル回転させるとともに、当局の経験を活かして予測される実務対応まで踏み込んで解説した、税制改正解説テキスト「超速」シリーズは毎年数百名の税理士が購入し、非常に高い支持を得ている。
著書に『最新リース税制』(共著)、『国際的二重課税排除の制度と実務』(共著)、『税務署の裏側』『社長、その領収書は経費で落とせます!』などがあり、現在納税通信において「税務調査の真実と調査官の本音」という200回を超えるコラムを連載中。
<参考サイト>
<著書>
※このコーナーでは元国税調査官・税理士 松嶋洋が税理士法人東京税経センターのメルマガに掲載したコンテンツを編集・再掲したものをお届けしています。今回は、第二百二十五回目のメルマガ、テーマは「差し出すべき誠意は即納」です。
引用元:差し出すべき誠意は即納 | 税理士法人 東京税経センター