税務調査の対象になる年分(税務調査の時効)について、実務で最も問題になるのは、脱税行為があった場合に延長される7年
この要件に当たるかどうかです。
不正行為に対するペナルティーである重加算税についても、実務ではその要件に当たるか否か、調査官と見解の相違が生じることが多くあります。
このため、脱税行為と一言で言っても、法律上それに該当するかどうか微妙なところがあります。
この脱税行為については、法律上「偽りその他不正の行為により~税を免れる」行為をいうとされています。
問題になるのは「偽りその他不正の行為」の意義です。
この意義について、名義の仮装や二重帳簿などのあからさまな不正行為はもちろん、税務調査において虚偽答弁をするなどして税金をごまかす工作をする場合についても、これに該当する場合があります。
その他、注意したいポイントが二つほどあります。
一つは、脱税行為がわずかでもあれば、脱税に当たらない部分も含めて、すべて7年間課税処分の対象になるということです。
具体的には、7年前に意図的な売上除外が100あり、それ以外に1,000の申告ミスがあるとします。この場合、7年前の所得として税務調査で課税される金額は、脱税行為に当たる100ではなく、申告ミスも含めた1,100となります。
次に、脱税行為があったか否かの判断は、原則として法定申告期限で判断するということです。
税務調査前に自主的に修正申告をすれば重加算税は課税されませんが、脱税行為は自主的に修正申告をしたとしてもそれをなかったことにはできません。法定申告期限を経過すれば、後日修正しても、脱税があったとされるからです。
結果として、脱税行為が7年前にあり、7年前の事業年度の法定申告期限を過ぎてしまえば、自主修正をしたとしても、7年前の事業年度について税務調査されることになります。
ところで、脱税行為とは、大前提として「税を免れる」行為を言います。税を免れていなければ、不正行為があっても、脱税をしたことにはなりません。
具体的には、粉飾決算がこれに当たります。粉飾決算を行った結果、不正に利益をかさ上げして税金を過大納付しても、税を免れていませんから、税務調査の時効は7年に延長されません。
少し専門的になりますが、同様の理屈で、7年前に売上除外があったものの、それを是正した課税処分が取り消された事例があります。
この事例では
1 7年前に売上除外があった
2 ただし、それ以外に、申告していなかった売上除外に対応する経費が多額に存在していた
3 その経費を差し引けば売上除外による金額が存在しないことになるため、結果として売上除外に対応する税額も発生しない
ことになりました。
となると、売上除外という不正行為はあったものの、税を免れていないため、時効は延長されず、7年前の課税処分が取り消されています。
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著者
元国税調査官・税理士 松嶋 洋
平成14年東京大学卒業後、国民生活金融公庫(現日本政策金融公庫)、東京国税局、企業税制研究所(現日本税制研究所)を経て、平成23年9月に独立。
現在は通常の顧問業務の他、税務調査対策等のコンサルティング並びにセミナー及び執筆も主な業務として活動。とりわけ、平成10年以後の法人税制抜本改革を担当した元主税局課長補佐に師事した法令解釈をフル回転させるとともに、当局の経験を活かして予測される実務対応まで踏み込んで解説した、税制改正解説テキスト「超速」シリーズは毎年数百名の税理士が購入し、非常に高い支持を得ている。
著書に『最新リース税制』(共著)、『国際的二重課税排除の制度と実務』(共著)、『税務署の裏側』『社長、その領収書は経費で落とせます!』などがあり、現在納税通信において「税務調査の真実と調査官の本音」という200回を超えるコラムを連載中。
<参考サイト>
<著書>
※このコーナーでは元国税調査官・税理士 松嶋洋が税理士法人東京税経センターのメルマガに掲載したコンテンツを編集・再掲したものをお届けしています。今回は、第二百二十三回目のメルマガ、テーマは「脱税行為があっても7年遡及になるとは限らない」です。
引用元:脱税行為があっても7年遡及になるとは限らない | 税理士法人 東京税経センター