専門的な話になりますが、税務調査では、課税処分の対象になる年分の時効が問題になります。
法人税の場合は、
1 原則として過去5年間
2 脱税行為がある年分については、更に2年間さかのぼり、7年間
がその対象になります。
この時効が問題になるのは、時効が成立していない事業年度について、税務調査の対象になるからです。
これに加えて、法人税の場合の特例として、繰越欠損金に対する課税処分については、過去9年(平成30年4月1日以後開始事業年度分は10年。以下同じです。)分行うことができるとされています。
過去の赤字である繰越欠損金は、発生した年度から9年に渡り将来の黒字と相殺することができますので、その繰り越せる年分に併せて、課税処分の対象になる年分が9年に延長されています。
このため、例えば9年前に1,000の赤字があり、その1,000が繰越欠損金になるのであれば、9年前も課税処分の対象になることから、結果として9年前も税務調査される可能性があります。
ここで問題になるのは、あくまでも9年前、8年前の課税処分の対象となるのは繰越欠損金に対応する部分についてのみであるということです。
先の例で言えば、1,000の繰越欠損金が発生した9年前は税務調査の対象になりますが、是正できる金額は繰越欠損金として申告した1,000が上限となります。
このため、800の売上もれが9年前にあれば、繰越欠損金は本当は200(=1,000―800)であると税務調査で国税は是正することができます。しかし、仮に1,200の売上もれが9年前にあったとしても、繰越欠損金を0とすることはできても、200(1,200-1000)の黒字があるという課税処分はできないのです。
あくまでも、9年前と8年前は、繰越欠損金を増減させる課税処分が対象になりますから、繰越欠損金を超えて黒字がある、という課税処分はできないのです。
以上を踏まえると、8年前以前の事業年度については、税務調査の対象になることはあっても、追加で法人税が課税されることはないのです。
税法を読めない調査官の中には、税務調査の対象になることをもって8年前以前の事業年度についても税金がかかる、などと指導することがありますが、それは誤りですので真に受ける必要はありません。
加えて、法人税が課税されることがないということは、これらの年度において間違いがあったとしても、ペナルティーに相当する加算税が課されることもないことになります。このため、加算税を減免するために行うべき自主修正についても、これらの年度においては強いて行う必要はないということになります。
もちろん、過去の繰越欠損金が変わることにより、通常の時効である5年内の所得金額が変わることがありますので、その場合には、自主修正を検討する必要があります。
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著者
元国税調査官・税理士 松嶋 洋
平成14年東京大学卒業後、国民生活金融公庫(現日本政策金融公庫)、東京国税局、企業税制研究所(現日本税制研究所)を経て、平成23年9月に独立。
現在は通常の顧問業務の他、税務調査対策等のコンサルティング並びにセミナー及び執筆も主な業務として活動。とりわけ、平成10年以後の法人税制抜本改革を担当した元主税局課長補佐に師事した法令解釈をフル回転させるとともに、当局の経験を活かして予測される実務対応まで踏み込んで解説した、税制改正解説テキスト「超速」シリーズは毎年数百名の税理士が購入し、非常に高い支持を得ている。
著書に『最新リース税制』(共著)、『国際的二重課税排除の制度と実務』(共著)、『税務署の裏側』『社長、その領収書は経費で落とせます!』などがあり、現在納税通信において「税務調査の真実と調査官の本音」という200回を超えるコラムを連載中。
<参考サイト>
<著書>
※このコーナーでは元国税調査官・税理士 松嶋洋が税理士法人東京税経センターのメルマガに掲載したコンテンツを編集・再掲したものをお届けしています。今回は、第二百二十二回目のメルマガ、テーマは「8年前以前は黒字にできない」です。
引用元:8年前以前は黒字にできない | 税理士法人 東京税経センター