税務上問題になる役員退職金については、その役員が本当に退職したと言えるのかどうかが問題になります。
退職したと言えなければ、そもそも役員退職金を支給することはできません。
このような場合には、退職金として支給したとしても、賞与として課税されることになります。
このため、退職したかどうかが問題になりますが、短絡的な事実認定しかできない国税は、往々にして、役員の肩書だけに注目します。
本来、退職したかどうかは実質判断になるため、勤務実態などを検討しなければなりませんが、その検討をすることなく、退職した役員の肩書きが「~事務長」などといった権限ある名称になっていれば、未だに経営に携わっているとして、退職したとは認められない、などといった指摘をしています。
このため、実質的に退職していると主張できるかが税務調査のポイントになる訳ですが、税務における退職の意義については、勤務先からの離脱を意味すると説明されています。
役員の再任を考えていただくと分かりやすいのですが、役員の任期は基本的には2年とされているものの、中小企業においては2年で辞めることなく再任されて経営を続けるのが一般的です。
任期を満了しているのであれば、一般的な感覚としては退職金を支給しても問題ないはずですが、再任が前提となっているのであれば、勤務先である自社から離脱することはありませんので、単なる任期満了だけでは退職したとは言えず、役員退職金を支給することはできません。
結果として、会社に席を置かないことになって初めてその役員は退職したと言えることになります。
この点、税理士の中では非常によく知られており、再任されるのであれば役員退職金は支給できないと指導していますが、押さえておきたいのは、再任された結果は同じでも、再任が前提でなければ退職したと認められる場合もあるということです。
過去の事例を見ますと、
1 M&Aによって株主に異動があった会社
2 その新株主の下、経営陣を一掃する目的で旧経営陣が退任
3 諸事情があって後任が決まらなかったため、「やむを得ず」退任日と同日に旧経営者が再任
このような事案がありました。
この旧経営者については、退任する意向はすでに新株主に説明しており、本来であれば退職していたはずであるとして、再任はされたものの役員退職金の支給が認められています。
すなわち、本来再任されれば退職とは認められないはずですが、再任が前提ではなく、「やむをえない」後発的な事情があったため再任したのであれば、勤務先から離脱をしているとは言えないものの、退職金の支給が認められる可能性があるのです。
こういう意味からも、退職の判断には実質判断が必要であると言えますから、単に、退職した役員の肩書き再任したという事実関係にとらわれることなく、慎重に判断する必要があります。
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著者
元国税調査官・税理士 松嶋 洋
平成14年東京大学卒業後、国民生活金融公庫(現日本政策金融公庫)、東京国税局、企業税制研究所(現日本税制研究所)を経て、平成23年9月に独立。
現在は通常の顧問業務の他、税務調査対策等のコンサルティング並びにセミナー及び執筆も主な業務として活動。とりわけ、平成10年以後の法人税制抜本改革を担当した元主税局課長補佐に師事した法令解釈をフル回転させるとともに、当局の経験を活かして予測される実務対応まで踏み込んで解説した、税制改正解説テキスト「超速」シリーズは毎年数百名の税理士が購入し、非常に高い支持を得ている。
著書に『最新リース税制』(共著)、『国際的二重課税排除の制度と実務』(共著)、『税務署の裏側』『社長、その領収書は経費で落とせます!』などがあり、現在納税通信において「税務調査の真実と調査官の本音」という200回を超えるコラムを連載中。
<参考サイト>
<著書>
※このコーナーでは元国税調査官・税理士 松嶋洋が税理士法人東京税経センターのメルマガに掲載したコンテンツを編集・再掲したものをお届けしています。今回は、第二百十八回目のメルマガ、テーマは「退職の意義」です。
引用元:退職の意義 | 税理士法人 東京税経センター