近年、消費税の不正還付事例が多くあるからか、消費税の還付申告をしても、税務調査が長引いて消費税の還付金が返ってこないといった困った事態が生じています。
不正還付は論外ですが、税務調査によって適正な還付申告であることが確認されているにもかかわらず、
- 決裁書類を作る時間がない
- 税務署の審理からダメ出しされて決裁が下りない
といった、法律以外の国税内部の事情によって返せないこともあるようです。
消費税の還付金は多額になる傾向があり、会社の資金繰りに与える影響も大きいですから、消費税の還付申告に対して国税の正確かつ迅速な処理が期待されます。
ところで、消費税の還付については、納税との絡みで多くの不満が指摘されています。
消費税を納税する場合には、申告期限までに納めなければならないのに、還付する場合には申告期限を過ぎて1~2カ月超もかかる
これは不公平である、こんな不満の声を耳にします。
加えて、消費税還付について国税が確認する場合、税務調査ではなく納税者の任意の協力によって資料を確認する行政指導によることもあります。
任意の協力ならわざわざ資料を出す必要もないはずで、なぜ税務調査でもないのに還付を裏付ける資料(契約書や明細書など)を提出しなければならないのか、こんな不満も耳にします。
消費税の還付金については、法律上、「国税は遅滞なく還付する必要がある」と定められています。
しかし、ここでいう「遅滞なく」とは還付金を返すのに 「合理的な時間」を意味するとされています。
この合理的な時間には、明確な誤りがある消費税還付の申告はもちろん、誤りがありそうな申告に対して、国税が内容をチェックする時間も含まれるとし、現状の実務のように国税が消費税還付の申告書をチェックしてから還付をしたとしても、遅滞なく還付金を返していることになる、と判断した裁判例があります。
つまり、チェックしてから還付金を返すのは問題ない訳ですから、上記のような不満は筋違いであり、かつ、任意の協力とは言え、還付申告のチェックに必要な資料についても国税に提供もせざるを得ないという結論になります。
こういう訳で、消費税の還付申告については、出来る限り早く返してもらうよう、国税に協力せざるを得ないと考えられます。
ただし、チェックに必要でない時間をかけるのは、合理的な時間とは言えませんので、法律的にも誤りです。
このため、必要以上の時間を調査官がかけているのであれば、遅滞なく還付するという法律の趣旨に違反していることを国税に申し出るべきでしょう。
なお、私は還付申告については、事あるごとに担当者や統括官に督促しています。
こういう督促を繰り返すと、還付が通常よりも早くなるのが弱腰の国税の不思議なところです。
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著者
元国税調査官・税理士 松嶋 洋
平成14年東京大学卒業後、国民生活金融公庫(現日本政策金融公庫)、東京国税局、企業税制研究所(現日本税制研究所)を経て、平成23年9月に独立。
現在は通常の顧問業務の他、税務調査対策等のコンサルティング並びにセミナー及び執筆も主な業務として活動。とりわけ、平成10年以後の法人税制抜本改革を担当した元主税局課長補佐に師事した法令解釈をフル回転させるとともに、当局の経験を活かして予測される実務対応まで踏み込んで解説した、税制改正解説テキスト「超速」シリーズは毎年数百名の税理士が購入し、非常に高い支持を得ている。
著書に『最新リース税制』(共著)、『国際的二重課税排除の制度と実務』(共著)、『税務署の裏側』『社長、その領収書は経費で落とせます!』などがあり、現在納税通信において「税務調査の真実と調査官の本音」という200回を超えるコラムを連載中。
<参考サイト>
<著書>
※このコーナーでは元国税調査官・税理士 松嶋洋が税理士法人東京税経センターのメルマガに掲載したコンテンツを編集・再掲したものをお届けしています。今回は、第二百十五回目のメルマガ、テーマは「消費税還付の交渉の肝」です。
引用元:消費税還付の交渉の肝 | 税理士法人 東京税経センター