中小企業の実務においては、経営者や役員の退職に備えて、退職金の原資として保険料の半額が損金になるような保険に加入することがあります。
このような保険に加入して保険料を支払って、その一部を経費にすることは問題ありません。
一方で、保険金を実際に受領する際、その保険金の一部は収益になりますので、それが課税されないよう退職金を支出することになりますが、収益に計上されることになる保険金の金額と、経費とすることができる退職金の金額は、相関関係が全くないことには注意する必要があります。
具体的に申し上げると、5,000万円の保険金を収入し、その半額の2,500万円が収益計上されるとした場合、2,500万円の退職金を支給すれば、理論上は両者が相殺されて利益はゼロになり、法人税は発生しません。
しかし、退職金は適正額しか経費にならないという取扱いがあり、この適正額は原則として平均功績倍率法などで計算されます。
このため、保険金を貰ったとしても、平均功績倍率法などで計算される金額の範囲しか退職金は経費とすることはできず、収益計上される保険金の金額とは関係がありません。
具体的には、平均功績倍率法で計算される適正額が1,500万円であれば、差額の1,000万円については経費にならず利益に計上され、結果として法人税が発生することになります。
以上を踏まえると、保険金を収入する際の出口戦略に備えて、保険金による収益額と相殺が可能になるよう、退職金の適正額を予め増額させる必要があるということになります。
平均功績倍率法による適正額は、勤続年数と最終報酬月額、そして平均功績倍率によって決まるため、法人の判断で操作できる最終報酬月額について、退職金の支給を受ける前までに、平均功績倍率法から逆算して調整する必要があります。
最終報酬月額を調整する場合の注意点ですが、退職する直前に報酬月額を増額させるような場合には問題が生じる可能性があります。
なぜなら、過去の判決例において、平均功績倍率法の前提として、役員の最終報酬月額は、退職直前に当該役員の報酬が大幅に引き下げられたなどの特段の事情がない限り、役員在職中における法人に対する功績の程度を最もよく反映していると判断されているからです。
この判断を前提にすれば、退職直前に報酬を大幅に増減させるなどすれば、平均功績倍率法を使うこと自体不適当であり、退職金の適正額はもっと小さくなる、といった判断がなされる可能性があります。
加えて、国税としても、退職直前に報酬月額を増額させて、役員退職金の適正額を増額させるなどすれば苦々しい思いをするはずで、結果として厳しい対応をする可能性があります。
このため、退職する役員の報酬月額は、退職前に数年かけて、徐々に調整する必要があると考えられます。
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著者
元国税調査官・税理士 松嶋 洋
平成14年東京大学卒業後、国民生活金融公庫(現日本政策金融公庫)、東京国税局、企業税制研究所(現日本税制研究所)を経て、平成23年9月に独立。
現在は通常の顧問業務の他、税務調査対策等のコンサルティング並びにセミナー及び執筆も主な業務として活動。とりわけ、平成10年以後の法人税制抜本改革を担当した元主税局課長補佐に師事した法令解釈をフル回転させるとともに、当局の経験を活かして予測される実務対応まで踏み込んで解説した、税制改正解説テキスト「超速」シリーズは毎年数百名の税理士が購入し、非常に高い支持を得ている。
著書に『最新リース税制』(共著)、『国際的二重課税排除の制度と実務』(共著)、『税務署の裏側』『社長、その領収書は経費で落とせます!』などがあり、現在納税通信において「税務調査の真実と調査官の本音」という200回を超えるコラムを連載中。
<参考サイト>
<著書>
※このコーナーでは元国税調査官・税理士 松嶋洋が税理士法人東京税経センターのメルマガに掲載したコンテンツを編集・再掲したものをお届けしています。今回は、第二百十四回目のメルマガ、テーマは「保険金と退職金は関係ない」です。
引用元:保険金と退職金は関係ない | 税理士法人 東京税経センター