簡易課税と申告書の記載に係る真実:元国税調査官・税理士 松嶋洋が語る!税務署の実態と税務調査対策ノウハウ

元国税調査官・税理士 松嶋洋が語る_税務署の実態と税務対策ノウハウ

売上から概算で、消費税の経費を計算する簡易課税を適用する場合、以下の注意点があると、国税内部ではいわれています。

  • 売上の種類ごとに、金額や全体に占める割合を申告書に書いておく
  • 書いてなけば区分をしていないことになる
  • 結果として最低の控除割合(みなし仕入れ率)で計算する

私は実際に否認したことはありませんが、申告書に記載しない人の方が圧倒的に多いため、納税者との交渉で有利に立つための指導事項として、申告書に記載をしていない税理士をいじめたことは何回もあります。

こういうわけで、簡易課税を適用する場合には、申告書にきちんと書くように指導されるのですが、法律を研究すると、実は申告書に金額や割合を書いていなくても、最低のみなし仕入れ率で計算する必要はないことが分かります。

つまり、現職時代に受けていた指導事項は誤っていた訳で、仮に否認していれば大問題になっていたのです。

区分していない場合、最低のみなし仕入れ率で計算するとされている法律について、税金を取る国税は、それを正確な区分をしなかった納税者に対するペナルティーとして捉えています。

しかし、この条文の趣旨を確認すると、これはペナルティーではなく、記帳の水準が低い納税者は、区分することが困難である場合も想定されることから、区分がなされていない場合の適用関係を明らかにしたものと解説されています。

簡易課税は小規模事業者について認められている制度ですが、このような制度が設けられているのは、小規模事業者は経理水準が低いため、消費税を簡単に計算できる制度が必要と判断されたからです。

この趣旨と同様、売上の種類ごとに帳簿で区分すると大変ですので、仮に区分がなければ便宜上最低のみなし仕入れ率で計算することで問題ない、という意味でこの規定は設けられているのです。

ペナルティーではない以上、 申告書に書いておかなければ区分したことにならない、といった強硬的な規定ではありませんので、実際のところは非常に融通が利く制度と言えます。

この点、過去の裁決事例においても、

申告内容の正当性を裏付ける事業の種類ごとの区分が行われた帳簿等が異議調査等の段階で提示されたことをもって、申告期限までに当該区分が行われたと推定せざるを得ない

と判断されています。

異議調査とは、申告後に国税から課税処分をされた後、それに不服がある場合に行われる不服申立ての際に行われる調査です。このため、申告書に書いておかなければ区分したことにならない、という前提は成り立たないことは明白なのです。

上層部もろくに法律を読めないし、調べないからこんな誤った指導がなされるわけです。国税の指導は本当に正しいのか、逐一吟味する必要があると言えます。

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著者

元国税調査官・税理士・松嶋洋


元国税調査官・税理士 松嶋 洋

平成14年東京大学卒業後、国民生活金融公庫(現日本政策金融公庫)、東京国税局、企業税制研究所(現日本税制研究所)を経て、平成23年9月に独立。

現在は通常の顧問業務の他、税務調査対策等のコンサルティング並びにセミナー及び執筆も主な業務として活動。とりわけ、平成10年以後の法人税制抜本改革を担当した元主税局課長補佐に師事した法令解釈をフル回転させるとともに、当局の経験を活かして予測される実務対応まで踏み込んで解説した、税制改正解説テキスト「超速」シリーズは毎年数百名の税理士が購入し、非常に高い支持を得ている。

著書に『最新リース税制』(共著)、『国際的二重課税排除の制度と実務』(共著)、『税務署の裏側』『社長、その領収書は経費で落とせます!』などがあり、現在納税通信において「税務調査の真実と調査官の本音」という200回を超えるコラムを連載中。

<参考サイト>

<著書>

※このコーナーでは元国税調査官・税理士 松嶋洋が税理士法人東京税経センターのメルマガに掲載したコンテンツを編集・再掲したものをお届けしています。今回は、第二百七回目のメルマガ、テーマは「簡易課税と申告書の記載に係る真実」です。
引用元: 簡易課税と申告書の記載に係る真実| 税理士法人 東京税経センター

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