重加算税を課税する場合には、 故意に基づく隠ぺい仮装行為が必要であるというのが通説です。
しかし、近年の傾向として、当初から所得等を過少に申告する意図であったことを外部からもうかがい得る特段の行動がある場合にも重加算税の対象になるとした最高裁判例があります。
今回は、このうかがい得る特段の行動について解説したいと思います。
うかがい得る特段の行動となると、冒頭に述べた「故意」は重要ではないと考えられるため、広く重加算税が課税されると考えられます。
実際のところ、 重加算税が課税されるケースが近年増えているという、弁護士も多数存在します。
このような拡大解釈を最高裁が解釈したのは、あからさまな無申告などが見られる場合に問題が生じるからです。
重加算税は、単純ミスではない、意図的な不正がある場合のペナルティです。
このため、単純ミスの過少申告と区分するために、申告のミス以外に隠ぺい仮装と評価できる行為が必要になると言われています。
このような通説には問題点があります。例えば、
- 隠ぺい工作を全くしない
- どうせ見つからないからと思って、所得を全く申告しない
このような場合が問題になります。
なぜなら、申告に隠ぺいはあるものの、申告以外に隠ぺいはないことになるからです。
このような悪質な申告もれについては、法律の建前は別にして、やはり重加算税を課税すべきです。
最高裁判所も、このような事情を考慮した上で、隠ぺい工作がなくても、客観的に見て隠ぺいする意図が明白であれば、重加算税を課税できるとしたのが先のうかがい得る特段の行動の意味するところなのです。
こういうわけで、あらゆる場合において隠ぺい仮装の故意がなくても重加算税の対象になる、というのは行き過ぎですが、あからさまに不正と言える申告漏れがあれば、明確な隠ぺい仮装がなくても、重加算税が課税される場合があるため、注意が必要です。
何をもってあからさまと言えるかが問題になりますが、過去の判例によると、
(1)税務調査で虚偽答弁がある場合
(2)申告に当たって税理士に見せるべき資料を秘匿した場合
(3)意図的な過少申告を何年にもわたり続けていた場合
(4)通常保存する資料を散逸させて分かりにくくする場合
など、国税から見て悪質性が高いと判断する場合が挙げられています。
このような事情があるため、近年の税務調査では重加算税の範囲を国税は広く解釈するわけですが、注意しておきたいのは重加算税については、隠ぺい仮装の故意が必要であるという原則は崩れていないということです。
隠ぺい仮装の故意がなければ、重加算税を全く課税できないのはおかしいことから、うかがい得る特段の行動のような、露骨な不正について隠ぺい仮装の故意があると同視できるとしているわけで、悪質性がない場合には、隠ぺい仮装の故意がない限り、重加算税を課税すべきではないと結論付けられます。
なお、税務調査では資料を出し過ぎてはいけないが、嘘をつくのはもっての外と説明されます。
この点、(1)の通り、重加算税のリスクが大きいですから注意してください。
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著者
元国税調査官・税理士 松嶋 洋
平成14年東京大学卒業後、国民生活金融公庫(現日本政策金融公庫)、東京国税局、企業税制研究所(現日本税制研究所)を経て、平成23年9月に独立。
現在は通常の顧問業務の他、税務調査対策等のコンサルティング並びにセミナー及び執筆も主な業務として活動。とりわけ、平成10年以後の法人税制抜本改革を担当した元主税局課長補佐に師事した法令解釈をフル回転させるとともに、当局の経験を活かして予測される実務対応まで踏み込んで解説した、税制改正解説テキスト「超速」シリーズは毎年数百名の税理士が購入し、非常に高い支持を得ている。
著書に『最新リース税制』(共著)、『国際的二重課税排除の制度と実務』(共著)、『税務署の裏側』『社長、その領収書は経費で落とせます!』などがあり、現在納税通信において「税務調査の真実と調査官の本音」という200回を超えるコラムを連載中。
<参考サイト>
<著書>
引用元: うかがい得る特段の行動に要注意| 税理士法人 東京税経センター