仮装隠ぺい行為の故意が必要になるか:元国税調査官・税理士 松嶋洋が語る!税務署の実態と税務調査対策ノウハウ

元国税調査官・税理士 松嶋洋が語る_税務署の実態と税務対策ノウハウ

税務調査でよく問題になる重加算税については、仮装隠ぺい行為の故意が必要になるか? が問題になります。

重加算税は仮装隠ぺいにより、税金を安く申告した場合に課税されます。

国税の見解としては、 仮装隠ぺい行為の故意がなくても、仮装隠ぺい行為と評価できる行為が事実としてある場合、重加算税の対象になると説明されており、私の現職時代にもこのように指導されていました。

具体例を申し上げると、例えば数年前、帳簿に売上を記載することを忘れてしまい、現在まで売上の計上がなされていなかったとします。

この場合、単純ミスであっても、売上の計上が現在までなされていないのであれば、それは仮装隠ぺい行為と評価できるため重加算税の対象になると説明されます。

一方で、国税の指導とは異なり、単純ミスである以上は仮装隠ぺいにはならず、積極的に売上を隠そうという故意がなければ、重いペナルティーである重加算税にはならないはず、というのが人情としては当然にあるはずです。

このような意見の相違が税務調査では何度も見られますが、実は30年以上も前の判例で、この問題は解決しています。

この判例(和歌山地裁昭和50年6月23日判決)においては、 不正手段による租税徴収権の侵害行為を意味し、「事実を隠ペい」するとは、事実を隠匿しあるいは脱漏することを、「事実を仮装」するとは、所得・財産あるいは取引上の名義を装う等事実を歪曲することをいい、いずれも行為の意味を認識しながら故意に行うことを要するものと解すべき、と説明されています。

故意が必要である以上、やはり単純ミスによるものであれば、隠そうという故意はないため、仮装にも隠ぺいにも当たらず、重加算税が課されることはないという結論になります。

実際のところ、当初の申告にミスがあり、申告すべき所得が過少になっているという事態は非常に多くあります。

この過少になっていることも、広く見れば所得を隠ぺいしていることになります。

となれば、重加算税の対象になってしまいますが、このような結論は妥当でないことは明白ですから、法律の要件としては通常の過少申告とは異なり、故意に基づく仮装又は隠ぺいという特殊な要件が重加算税には必要とされているのです。

このように、仮装隠ぺい行為には故意が必要というのは明白なのですが、今に至るまでそれと矛盾した指導がなされるのは、 当初から所得等を過少に申告する意図であったことを外部からもうかがい得る特段の行動があれば、重加算税を課税できるとした最高裁の判例があるからです。

外部からうかがい知る、となると、故意を持って積極的な隠ぺい仮装をしなくても重加算税が課税できることになります。

このように、国税は都合のいい判例は広く使いますので、反論する場合には注意が必要になります。

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著者

元国税調査官・税理士・松嶋洋


元国税調査官・税理士 松嶋 洋

平成14年東京大学卒業後、国民生活金融公庫(現日本政策金融公庫)、東京国税局、企業税制研究所(現日本税制研究所)を経て、平成23年9月に独立。

現在は通常の顧問業務の他、税務調査対策等のコンサルティング並びにセミナー及び執筆も主な業務として活動。とりわけ、平成10年以後の法人税制抜本改革を担当した元主税局課長補佐に師事した法令解釈をフル回転させるとともに、当局の経験を活かして予測される実務対応まで踏み込んで解説した、税制改正解説テキスト「超速」シリーズは毎年数百名の税理士が購入し、非常に高い支持を得ている。

著書に『最新リース税制』(共著)、『国際的二重課税排除の制度と実務』(共著)、『税務署の裏側』『社長、その領収書は経費で落とせます!』などがあり、現在納税通信において「税務調査の真実と調査官の本音」という200回を超えるコラムを連載中。

<参考サイト>

<著書>

※このコーナーでは元国税調査官・税理士 松嶋洋が税理士法人東京税経センターのメルマガに掲載したコンテンツを編集・再掲したものをお届けしています。今回は、第二百二回目のメルマガ、テーマは「仮装隠ぺい行為の故意が必要になるか」です。
引用元: 仮装隠ぺい行為の故意が必要になるか| 税理士法人 東京税経センター

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