平成29年度税制改正において、医療費控除の適用を受ける際、 医療費の領収書の提示に代えて、支出した医療費の明細書を提示することになるという改正が実現しました。
もちろん、明細書を添付するだけでは、いくらでもごまかしが利きますので、申告期限から5年間、国税は領収書の提示を納税者に求めることができるとされています。
この改正ですが、電子申告で医療費控除を受ける場合には、現状でも明細書だけで問題ないとされていますので、この措置にならって、納税者の手間を削減するというのが趣旨と思われます。
これだけ聞くと納税者有利と思えますが、現状領収書を添付されても、国税のマンパワーとして十分なチェックはできません。
このため、確定申告があった段階では問題とせず、後日、申告書を見直して税務調査先を選ぶ際に、問題がありそうな医療費控除申告者をピックアップして重点的に調査するという方針が取られています。
となると、医療費の領収書をつけてもらうより、後日国税の必要に応じて領収書を提出される方が処理はやりやすいという本音が国税にはあります。その結果として、後日内容を確認するため領収書を保存しておきなさい、としたと考えられます。
ところで、現状電子申告で医療費控除をした場合、後日その領収書をチェックされる可能性が大きい納税者は、税に詳しい税理士か税務職員の申告であると耳にしました。
税理士は別にして、本来悪質な節税を取り締まる税務職員の医療費控除の申告を重点的にチェックするというのは、多少違和感があります。
税務職員は税法の知識は乏しいものの、医療費控除について国税はろくにチェックをしないし、かつチェックされても医療費控除はあまり金額が大きくならないため十分な調査がなされない
こんな税務署の実務を十分に知っているため、ずる賢いことを考えることが多くあります。
このような姑息な節税?を利用させないよう、重点的に身内をチェックするという、情けない実務が行われているようです。
このような実務を背景にしても、税務調査などで調査官から言われる正義感など、当の調査官はどうてもいいと考えているのがよく分かります。
脱税などあからさまな不正取引や明確な税法の解釈の誤りがある場合は別にして、調査官も言ってしまえばこの程度なのですから、気を遣わずにどんどん強気に交渉して差し支えないと言えます。
なお、この医療費控除の改正は、平成29年分の所得税の確定申告を平成30年1月1日以後に提出する場合について適用されます。
しかし、その特例として、 平成29年分~平成31年分の申告については、従来通り領収書を添付して医療費控除の適用を受けることができるとされています。
国税が、十分なチェックができない医療費控除の実務を悪用する姑息な国税職員も多いわけですから、深度ある調査がなされる可能性が大きい改正後の取扱いを適用するのではなく、現状の
医療費控除の領収書を提示する
という取扱いはなるべく利用した方がいいと個人的には考えています。
となれば、手間がかかるものの、平成31年分までは、従来通り
領収書を添付して医療費控除を受ける
というやり方が望ましいのではないかと考えています。
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著者
元国税調査官・税理士 松嶋 洋
平成14年東京大学卒業後、国民生活金融公庫(現日本政策金融公庫)、東京国税局、企業税制研究所(現日本税制研究所)を経て、平成23年9月に独立。
現在は通常の顧問業務の他、税務調査対策等のコンサルティング並びにセミナー及び執筆も主な業務として活動。とりわけ、平成10年以後の法人税制抜本改革を担当した元主税局課長補佐に師事した法令解釈をフル回転させるとともに、当局の経験を活かして予測される実務対応まで踏み込んで解説した、税制改正解説テキスト「超速」シリーズは毎年数百名の税理士が購入し、非常に高い支持を得ている。
著書に『最新リース税制』(共著)、『国際的二重課税排除の制度と実務』(共著)、『税務署の裏側』『社長、その領収書は経費で落とせます!』などがあり、現在納税通信において「税務調査の真実と調査官の本音」という200回を超えるコラムを連載中。
<参考サイト>
<著書>
引用元: 医療費控除のチェック体制| 税理士法人 東京税経センター