前編に引き続き、2018年11月8日(木)秋葉原にて開催された弥生PAPカンファレンス2018 秋(東京)の模様をお届けします。
前編では、弥生株式会社の岡本代表が講演した「テクノロジーの進化と会計業務の電子化」についてお伝えしました。
後編では、弥生PAP会員の会計事務所による、業務改善についての事例発表の模様をお届けします。
目次
会計事務所業界で生き残るために~真のプロフェッショナル育成に必要なこと~:税理士法人ベリーベスト(東京)
時代に淘汰されない強い会計事務所をつくるために行った業務改善
ひとつめの事例発表は、東京の会計事務所である税理士法人ベリーベストの代表・税理士 岸 健一氏による「会計事務所業界で生き残るために~真のプロフェッショナル育成に必要なこと~」です。
昨今では、生き残りのために組織の大規模化や専門性の向上を目指す会計事務所も少なくありません。一方で、それらの実現に当たっては業界共通の課題である人手不足が障壁となるケースも多く、税理士法人ベリーベストでも同じ課題を抱えていました。
そこで、税理士法人ベリーベストでは、メインに業務を行っている水道橋の支店とは別に、埼玉の土呂に記帳代行センターを設立し、事務業務を集約。事務業務と専門業務を分離することによって、職員の勤務環境の改善、サービスの品質向上、採用力の強化に成功しました。
ここでは、岸代表が行った具体的な取り組みと、その成果についてお伝えします。
- 所在地:六本木(本店)、水道橋(支店)
- 開設日:2012年12月7日(前身組織は2007年8月3日から)
- 社員数:税理士、有資格者、スタッフ合計72名
- 顧問先数:500社程度
事務業務が負担で高付加価値業務に進めない…
プレゼンテーションでは、まず改善前の事務所の現状が発表されました。
会計事務所業界では、人口減少と税理士受験生の減少のダブルパンチによる採用難の時代に直面しています。
そんな中で、多くの会計事務所がそうであるように、税理士法人ベリーベストも、入力作業や決算書作成などの事務業務の負担が大きいにも関わらず、採用難で十分な人員も確保できず、高付加価値な業務の提供になかなか進めないという状況であったそうです。
そこで、岸代表は、「採用さえできれば生き残ることができる。どうすれば採用が増やせるのか。」ということにポイントを絞りました。
岸代表の立てた仮説は以下です。
- 人の頭で考える業務は残る(入力や申告書作成業務はなくなる)
- 若い人は、入力や申告書作成業務より、専門業務をやりたいと思っている
そこで、この仮設をもとに、都心から離れた場所に入力や申告書作成などの事務業務を行う新しい拠点を作り、水道橋の支店では専門業務を中心に経験できる環境を提供する、というアイデアを実行に移すことを決断しました。
埼玉に記帳代行センターを立ち上げ
新しい拠点は、次の項目をポイントに埼玉の土呂が選定されました。
- 社員が居住しているなどゆかりがあった
- 働く意欲がある主婦が多いにも関わらず、主婦が働きやすい求人が少ない
- 地代と時間単価が安く、東京までの距離が近い
土呂の記帳代行センターの採用では、事前のリサーチにより、主婦層にマッチする求人が地域に少なく、優秀な主婦層の採用が行いやすそうな点に着目。勤務時間や出社日数を柔軟にし、家庭や子どもの予定に合わせて働けるようにするなど、主婦が働きやすい環境を整えました。
また、経理スキルが身に付くことをアピールすることで、他の求人との差別化を図り、多種多様なバックボーンを持つ20名の人材の確保に成功しました。
課題・教育体制の構築をどう解決したか
一方で、土呂の記帳代行センターには、立上げ時よりクリアすべき課題も想定されていました。
それは、教育体制を含む組織の構築です。
土呂では、会計事務所の勤務経験者ばかりを採用できるわけではなく、未経験者が多くなること、また、水道橋との物理的距離もある中でうまく連携して業務を行わなければなりません。
そのため、水道橋と土呂のつなぎ役となるキーパーソンを配置し、ベリーベストとしての考え方や業務手法を新拠点に浸透させられるよう留意しました。また、未経験者でも短期間で即戦力になれる教育体制の構築に力を入れ拠点の構築を行っていきました。
弥生会計の“スマート取引取込”を活用して、業務効率化
土呂に新しく拠点を作り水道橋支店で行っていた入力業務を移転することで、水道橋の職員は専門的な業務に時間が取れるようになり、モチベーションを上げることに成功しました。
さらに入力業務の効率化にも同時に取り組み、従来の手入力による仕訳入力方式から、スキャンデータを取込み仕訳する、弥生会計の“スマート取引取込”を導入しました。
スキャンによって紙の資料を読み込んでデータ化する場合、どの程度まで正確に行えるのか気になる方も多いと思いますが、岸代表は取込の精度について、印字レシート認識率は80%以上という高水準で、業務効率化に欠かせないツールであると成果を熱く語りました。
どれだけ成果が上がったのか?業務効率化の成果
土呂での記帳代行センター立ち上げとスマート取引取組の積極的な活用で、税理士法人ベリーベストでは、どれほど成果が上がったのでしょうか。
岸代表は、2年で事務所経営、現場の実務、採用などあらゆる面で大きな変化を感じられるようになったと語りました。
現場の実務では、仕訳入力とチェックにかかる時間が大幅に削減されて、職場環境が改善しました。
- 土呂:レシートの自動取込で入力時間が3分の1に削減
- 水道橋:月30時間以上の残業が、10時間以内に
また、入力業務がなくなることで職員がスキルアップしたり、顧客や利益率の高い仕事の拡大につながったりと、当初目的としていた生き残るための強い組織作りにつながっているとのことです。
会計事務所業界は人手不足で難しい局面に立たされていますが、社内の業務体制の見直しや弥生のスマート取引取込といった新しいテクノロジーの活用によって事務所を成長軌道に乗せることに成功した岸代表のプレゼンテーションに、熱心に耳を傾ける参加者の方々が多く見られました。
人財難時代における業務改善とSMARTの活用:伊藤会計事務所(福岡)
業務の自動化で人材不足から脱却し、魅力ある会計事務所づくりに成功
もうひとつの事例発表は、福岡市の伊藤会計事務所の代表・税理士 伊藤桜子氏による「人材難時代における業務改善とSMARTの活用」です。
伊藤会計事務所は業務のうち記帳代行が約7割を占めており、慢性的な人手不足という課題を抱えていました。
また、人手不足を解決するための採用活動においても、そもそも応募者が少なく、採用ができたとしても次の退職者が出るとまた採用活動に追われてしまうという状況に危機感を募らせていました。そこで、まずは業務改善が急務と考えITを駆使した施策を実施したところ、人材の採用と定着が大きく改善しました。
ここでは、伊藤代表が行った具体的な取り組みと、その成果についてお伝えします。
- 所在地:福岡県福岡市
- 開業:平成20年4月
- スタッフ構成:正社員12名。パート5名
- 特徴:
- 顧問先は創業間もない会社や経営者が多い。
- 医業・サービス業が多い。
- 記帳代⾏68%、自計化32%。
- スタッフの平均年齢が若く、IT化に積極的に取り組んでいる。
会計入力業務を徹底的に自動化
業務改善にはITやクラウドの活用が必須であり、自動化技術や今後来るであろうAI技術こそ会計事務所業界の品質向上に欠かせないツールになると考えた伊藤代表は、まずは会計入力のIT化を加速することにしました。
記帳代行では、ネットバンキングやクレジットカードの利用明細などのデータをCSV形式とし、弥生のスマート取引取込を活用して弥生会計にインポート、データがない紙の領収書などは外部の仕訳入力サービスを利用して、徹底的に電子データ化を進めました。
こうして一部、入力業務の大部分を自動化することによって業務効率を大きく改善しました。
また、自計化しているクライアントに関しても同様に、ネットバンキングやカード明細、CSV化した現金出納帳をスマート取引取込を使って弥生会計へと取込む形式へと移行しました。
このように会計入力自動化を進めた結果、ミスは減少し、現場の労働時間も短縮、職場環境の改善につながりました。
ペーパーレス化、クラウドでのデータ共有への取り組み
業務の自動化と合わせて取り組んだのが、ペーパーレス化と弥生ドライブを活用したクラウドでのデータ共有です。
まずは担当者が顧問先から預かった資料はすべてスキャナでデータ化するところからスタート、現在は、ChatWorkを通じて資料をデータで預かる体制に移行中です。
また、会計データのチェックは内勤のスタッフが行い、顧問先に訪問する担当者は相談や提案業務に専念する体制へと組織を変更しました。
これにより担当者が顧問先に対して付加価値を出しやすくなり、事務所全体の専門性を高めることに成功します。
顧問先から協力を得るためのヒント
このように自動化やペーパーレス化を進めている伊藤会計事務所ですが、これらを進めていくためには、顧問先の協力が不可欠です。
ですが、会計事務所経営者のみなさんの多くは、顧問先の協力も仰ぎづらいというのが、実際のところではないでしょうか。
この点に関して伊藤代表は、顧問先から協力を得るためには、ある特徴を満たす導入しやすい顧問先から進めたり、顧客にとってのメリットを説明したりすることが不可欠だと語ります。
伊藤代表曰く、以下の特徴がある顧問先は比較的協力が得やすく、ここから会計自動化を進めていったのだそうです。
また、経営者が若い方だと、「データの取り込みはできますか?」と先方から提案してくれたりすることもあるそうです。
さらに導入のメリットをしっかり説明することに寄って、上記のような特徴がない顧問先でも、メリットに共感して協力してもらえたそうです。
会計入力の自動化を進めると会計数値が適時把握できるようになり、今までは決算がしまってからだった損益の把握が期中でも行えるようになり、顧客満足度のアップにもつながっているそうです。
記帳処理のスピードが2倍!採用力も向上!
これらの改善によって、伊藤会計事務所ではどのような成果が得られたのでしょうか。
伊藤会計事務所では、会計入力を自動化した結果、ひとり当たりの記帳処理件数は2倍になり生産性が大きく向上しました。また、顧問先への報告スピードが上がり顧問先の満足度もアップしました。
そして、業務効率がアップしたことによって人材の定着性も上がり、当初課題だった人手不足の解消と生産性の向上という課題を無事にクリアすることができました。
また、それだけではなく、「求職活動をしている人たちの中には、ITやクラウドに関するスキルを身に付けたいと思っている人がたくさんいる」ということに気付き、採用活動でも事務所のIT化をアピールしたところ、それまで年間で数人程度しかなかった応募が、現在では2桁以上の応募が集まるようになったそうです。
テクノロジーが仕事の機会を奪うと言われていますが、使い方を工夫すればより豊かになることができると、伊藤代表は実感を込めて語りました。
以上、前後編に渡って弥生PAPカンファレンス2018秋・東京の模様をお届けしました。
次回の弥生PAPカンファレンスにもご期待ください!
弥生PAPで会計事務所経営に必要な情報を!
「弥生PAP」とは、弥生株式会社と会計事務所がパートナーシップを組み、弥生製品・サービスを活用して、中小企業、個人事業主、起業家の発展に寄与するパートナープログラムです。2018年9月時点で9,000以上の事務所が加入。税務サービスを提供する会計事務所様はぜひご加入をご検討ください。