近年スタートアップやベンチャー企業(以下「スタートアップ」)が急増しています。当然スタートアップも会計・税務処理をしなければいけないので、会計事務所を選ばなければなりません。しかしスタートアップには特殊な税務上の論点もいくつかあり、ノウハウが必要です。
今回お話を伺ったKepple(以下「ケップル」)会計事務所は、シード・スタートアップ・インターネットサービスに特化した会計事務所。税務だけではなく資金調達や、スタートアップの社外役員も務めます。
なぜスタートアップに特化したのか、その経緯、社外役員をしている理由などについて、ケップル代表の神先さんに伺いました。
神先 孝裕(かんざき たかひろ)
Kepple会計事務所 代表・株式会社ケップル 代表取締役
公認会計士・税理士
2009年、公認会計士試験合格後、あずさ監査法人に入所。国際事業部にて主に監査、IFRS導入支援に従事。 修了考査合格後、監査法人を退職し、2013年に26歳で神先公認会計士事務所(現Kepple会計事務所)を設立し独立開業。日本を代表する若手ベンチャーキャピタリストであるSkyland Venturesの木下氏との出会いなどをきっかけに、スタートアップ企業を中心としたバックオフィス支援にて事務所を拡大。設立3年半で従業員10名、クライアント数150社まで事務所を成長させ、複数のスタートアップの社外取締役も務めるなどスタートアップ業界を中心に活躍中。
【参考記事】
【参考サイト】
シードのスタートアップで、インターネットサービスに特化
-Kepple会計事務所について教えてください。
ケップルはシードのスタートアップかつインターネットサービス特化の税理士事務所になります。
この記事を見て下さる方にはもしかしたら「シード」も「スタートアップ」も馴染みが薄いかもしれませんが、「ベンチャーキャピタル(VC)から投資を受けた、設立数年の若い企業」とイメージしていただければ大丈夫です。
私の知る限りシードのスタートアップに「特化」した会計事務所はケップルだけです。他方でシードのスタートアップは最近増えているので、ニーズはあるんですね。
スタートアップには特有の会計・税務上の論点があって、一般の会計事務所ではなかなか取扱いが難しいことがあります。なので最初に我々のところに来て下さるクライアントが増えてきている、という状況です。もちろんVCやクライアントからの紹介も多いです。
逆にこのスコープに入らないと、お断りするケースも多いですね。また大きくなってシードの段階を卒業していくようなケースでは、他の税理士を紹介するケースもあります。「シード・スタートアップ・インターネットサービス」に特化していることが強みなので、他の案件はなるべく抱えないようにしています
仕事の中身でいうと、税務だけでなくファイナンス(編注:ここではVCからの投資や銀行からの融資の支援をすること)もかなり手がけていることが特徴です。社外のCFOとして活動しているイメージですね。
-そういった経歴も活かして、前回はFUND BOARD(ファンドボード)の取材をさせていただきました。
そうですね。こちらも順調に成長しています。
(参考) 会計士が開発!スタートアップの資本政策や株主管理を助けるツールFUND BOARD(ファンドボード)がβ版リリース
-スタートアップ特有の論点というと、たとえばどのようなものがあるのでしょうか?
最近はスタートアップでも億単位の資金調達をするところも珍しくありません。そうすると外形標準課税の話が出てきます。
またスタートアップは海外のサービスを使っているケースが多いので、消費税の取扱いも話題に上りますね。
またストックオプションは税制適格の話やバリュエーションも論点になります。スタートアップには結構色々ありあますので、ここでは言えないような話もたくさんあります(笑)
独立時はスタートアップとの関わりなし。ゼロからのスタート
-シードのスタートアップに特化することになった経緯を教えてください。神先さんはもともと大手監査法人の出身ですよね?
大手の監査法人に5年ほど勤めて独立しました。でも実は、この時点でスタートアップなんてほとんど知らなかったんです。
まず独立してから、インターネットサービスを提供している某上場企業の経理を週何回かお手伝いして、経理実務を学びました。源泉徴収や法定調書などは直接監査法人時代に扱うことはなかったので、いい経験でした。
その間、会計事務所としても少しずつ仕事はしていたのですが、あるとき人に誘われて、スタートアップ業界のフットサルに参加したんです。そこがスタートアップとの最初の接点ですね。スタートアップのことを知るきっかけにもなりましたし、ここから顧問契約にも繋がっています。そのあとも紹介をいただいたり、少しずつスタートアップの顧問先が増えていきました。
ファイナンスは会社の重要な意思決定事項ではありますが、スタートアップだと社内に専門家がいることは稀です。それで税務もやっているし手伝ってくれないか、と相談を受けるケースが多いですね。もちろん最初はファイナンスなんて全然わからなかったですが、クライアントと一緒に頭を悩ませて、少しずつこなせるようになってきました。
初回の相談で意気投合。転職を決意
-ケップルで働いているメンバーについても伺わせてください。三浦さんはどうしてケップルの入社されたのですか?
三浦 龍二(みうら りゅうじ)
Kepple会計事務所/ Kepple行政書士事務所
公認会計士
2014 年 4 月より有限責任あずさ監査法人に入所し、主に金商法監査、会社法監査、学校法人監査等の公益法人に対する監査業務に従事。修了考査合格後、2017 年 12 月にあずさ監査法人を退職し、Kepple 会計事務所に入所。現在は、15 社以上のスタートアップ企業を担当しており、法人設立支援から会計・税務業務など幅広く担当している。
私も神先と同じで、大手の監査法人に在籍していました。私が小さいころに父が会社を設立しまして、そのころから中小企業なりの苦労を目の当たりにしていたんです。それで将来は中小企業を助けられる会計士になりたいと思いました。
まだ転職する気はなかったのですが、そういうことをしている会計士や税理士はいるのかな、と調べていたんです。そうしたら神先の記事をいくつか見つけまして「これだ!」と直感したんです。
それで深夜にFacebookでメッセージをくれたんだよね?
神先のことを発見して話を聞きたかったのですが、機会がなくて。それでFacebookで検索してみたら発見したので、思い切って連絡してみたんです。
スタートアップ業界では、Facebookで知らない方からメッセージがくるというのは珍しくないんですよ。今でもたまに人生相談のようなことをしています。なんでわざわざ深夜に送ってきたのかとは思いましたが(笑)
今でこそメッセージを送ることも抵抗ないですが、当時はそんな常識もしらず勇気を振り絞って連絡しました。
そこから神先と会って相談していたのですが、話を聞いていたらすごく楽しそうだったんです。税務以外にファイナンスだったり設立だったり色々やれそうなことも魅力的に映りましたし、スタートアップ特化なので、私がやりたかった中小企業の支援もできます。
そうしたら話の流れで「だったらケップルで働きなよ」となったんですね。その場ですぐに返事をして、2日後には退職届を出しました。あと深夜に連絡したことは反省しています(笑)
ケップルは2017年末に事務所を移転。これから人員拡大していく予定とのこと。
メンバーにも社外役員を務めてほしい
-ケップルの今後について教えてください。
まずは「シードのスタートアップかつインターネットサービス特化の会計事務所」というポジションは変えずに、粛々と成長していきたいと思います。その他でいいますと、ケップルのメンバーが社外役員や社外CFOになっていくケースを増やしたいですね。
私も数社のスタートアップで社外役員として、CFO的な仕事をしています。これによって税理士の立場とは違う視点もスキルも身につくんです。こういうメンバーがいるということはケップルのブランドにもなりますし、メンバーにはぜひ社外役員を積極的に引き受けてもらいたいですね。
-今後事業が拡大していくと思いますが、それに伴い新たな人材も入ってくるかと思います。どんな方に来ていただきたいですか?
素直な方ですね。ケップルの入社面接は私だけでなく他のメンバーにもしてもらうのですが、大事なのは「ケップルっぽい」かどうかなんです。
入社したメンバーは全員ケップルっぽさがあって、共通しているのは素直さです。あとは何度も申し上げているように、ケップルはスタートアップ・インターネットサービスに特化しています。そこに興味があることも当然重要です。スキル的なことは特に最初は求めていません。やる気を重視しています。
-三浦さんのように、スタートアップと仕事をしたいという会計士や税理士が多いのですか?
スタートアップもそうですし、中小企業を支援したい人は多いですね。
我々としては、税務ができてインターネットサービスが好き、そしてベンチャー支援がしたい会計士や税理士を求めています。スタートアップに興味はあるけど、飛び込むのは少し違うな、という方も会計士や税理士にはいると思います。そういう方は支える側として活躍すればいいと思います。スタートアップに特化した会計事務所は少ないのでスキルもつきます。
スタートアップに特化とはいっても、当然ファイナンスばかりやっているわけではなく、記帳代行、月次・年次決算、税務申告書作成というスタンダードな仕事が基礎にあるわけで、当然税理士としての土台も作れます。
スタートアップは少々特殊な世界です。最初から完璧である必要はありません。ケップルは実力主義で、常に門戸を広げています。日進月歩のこの世界で、一緒に学んでいければいいと思っています。