平成26年の税理士法施行規則によって、勤務しながら個人での仕事も受任できるようになった所属税理士。前回の記事では、「所属税理士」が個人で業務を受任できる条件についてお伝えしました。
前回の記事は以下をご参照ください。
この所属税理士が直接契約を受任できるという大改正の一方で、新たに所属税理士とクライアントが直接の契約関係を持つことから、問題となる場面が出てきました。
所属税理士はどういった点に気をつけてクライアントと契約をすればよいのでしょうか?
今回は、日本税理士会連合会の「所属税理士制度(税理士法施行規則第1条の2)に関するQ&A」を参考に、この点についてお伝えしたいと思います。
1:確認しないとトラブルのもと!クライアントと契約するときのポイントは
契約に関して注意しなきゃいけない改正点はある?
所属税理士の大原さんは使用者税理士の承諾を得て、友人の田中さんと顧問契約をすることになりました。大原さんは、直接契約をするのは初めてです。田中さんとの契約に際し、特に注意すべき点はあるのでしょうか?
契約締結時には、契約書以外に必要な書類が2点あります。
- 説明書面
- 承諾書の写し
なお口頭での説明は認められませんので、書面を準備して契約に臨みましょう。
説明書面には、所属税理士である旨など法定事項を記載することになります。また書面で渡す場合も、委嘱者に責任の所在や制度を確実に理解してもらうために、十分な説明が必要です。
税理士法施行規則第1条の2第3項に掲げる以下の事項を記載した説明書面を委嘱者に交付して、説明する必要があります。また。承諾を得たことを証する書面の写しを添付します。説明書面には所属税理士の署名押印が必要です。
- 所属税理士である旨
- その勤務する税理士事務所の名称及び所在地又はその所属する税理法人の名称及び勤務する事務所(当該事務所が従たる事務所である場合には、主たる事務所および当該従たる事務所)の所在地
- その使用者である税理士又は税理士法人の承諾を得ている旨
- 自らの責任において委嘱を受けて税理士業務等に従事する旨
(所属税理士に関するQ&A: Q&A9参照)
2:気になる責任と対価。サインは?報酬はどうなるの?
(1)税務代理権限証書の名称は誰の名前で記載すべきか
無事に契約を済ませて税務業務をこなし、いよいよ申告書を提出する時期になりました。ここで所属税理士の大原さんに疑問がわいてきました。
「今まで税務代理権限証書は、税理士法人の名称を記載していたけど、今回のように直接受任した場合でも、税務代理権限証書は所属している税理士法人の名前で提出するのかな?それとも自分の名前で提出したら良いのかな?」
法改正以前は、主要な実務を補助税理士が行っていたとしても、使用者税理士等の名で提出するのが通例でした。
しかし、改正によって、直接受任した場合は所属税理士の名前で提出することができるようになりました。ですので、大原さんの名前を記載してください。受任した責任と喜びが、実感できる瞬間ですね。
税務代理権限証書は、委嘱者との委嘱契約に基づいて作成されるため、委嘱契約に基づき税理士業務を行う税理士の名前を記載することになります。したがって、所属税理士が直接委嘱を受け税理士業務を行う場合には、自らの名で提出することになります。(所属税理士に関するQ&A: Q&A20参照)
(2)税務代理権限証書の次は、税務書類の署名が気になるけど…
所属税理士の大原さんは、田中さんから受任した税務申告に添付する税務代理権限証書に、自分の名前を記載しました。次は、税務書類の署名押印の方法にも何か変更があるのか、気になっている様子です。
クライアントが「税務業務を責任をもってやってくれたのはこの人なんだ!」と一見して分かるのは、何といっても税務書類の署名押印欄ですよね。
改正後は、直接受任した申告書については、「税理法人名+自分の肩書と名前+直接受任」の旨を自署し押印してください。初めてするサイン、一生忘れられませんね。
税理士法施行規則第16条第1項第2号及び第3項より、勤務する税理士事務所の名称又はその所属する税理法人の名称のほか、直接受任である旨を付記する必要があります。
≪記載例≫
○○税理士法人 所属税理士○○○○(直接受任)
(所属税理士に関するQ&A: Q&A21参照)
(3)給料をもらってるけど、受任した契約先からの報酬も自分で受け取っていいのか
所属税理士の大原さんは、お給料をもらっているのに受任先からの報酬も直接受け取っていいのか、使用者税理士には聞きづらいようです。はたして、受任した分の報酬は自分で受け取っていいのでしょうか?
この点、自分の責任で受任して税理士業務を行った報酬は、当然に受け取ることが可能です。
自らの名で委嘱を受けて直接受任業務を行う合は、当然に自らの名で報酬を受け取ることが可能です。(所属税理士に関するQ&A: Q&A28参照)
(4)サインをしたら責任ずっしり……万が一の損害賠償に備えるべき?
所属税理士の大原さんは、サインをして報酬を受け取り、その責任の重さを痛感しているところです。万が一にも受任業務に関して委嘱者に財産上の損害を与えた場合のために、事前に賠償の備えをしておいたほうが良いのか悩んでいます。
報酬も賠償責任も、受託した所属税理士に帰属しますので、何かあれば損害賠償請求を受ける可能性はあります。開業税理士や社員税理士と同じリスクが生じるため、万が一のことを考えて損害賠償責任保険に加入しておきましょう。
受任業務に関して委嘱者に財産上の損害を与えた場合も、委嘱を受けた所属税理士が自ら責任を負います。所属税理士も税士職業賠償責任保険に加入することは可能であり、直接受任業務も保険の対象になります。(所属税理士に関するQ&A: Q&A29参照)
以上、所属税理士とクライアントの関係について、実務的に問題となる点についておこたえしました。サインや、報酬など気になる点が盛りだくさんの内容です。ぜひ実務の参考になさってください。
次回は、“独立に向けて所属税理士は何ができるのか”についてご紹介します。
【続きはこちら】
→所属税理士が開業するには何をしたら良い!?所属税理士に必要な独立準備を解説-所属税理士制度とは?(3)
(著者:大津留ぐみ / 大津留ぐみの記事一覧)
<参考>
<免責事項>
本記事は、日税連「所属税理士制度に関するQ&A」(平成26年10月15日)の情報を参考に執筆しており、最新の情報であることを保証するものではありません。法令・規則等は変更となる場合がございますので、最新の情報をご確認の上、各事項に関してご判断頂くようお願い致します。