独立・開業は税理士や公認会計士の多くが憧れる夢のある選択肢です。一方で、実際に独立するとなると、資金やオフィス・備品の準備、営業、マーケティング、人材採用など様々な課題をクリアする必要があり、また、独立後の継続的な成長も実現していく必要があります。
そこで、会計事務所名鑑では、トップファームを経営するベテランの税理士や公認会計士の方々に5つのポイントに絞ったインタビューを行うことによって、「彼らは独立する際に何をしていたのか」「独立には何が必要なのか」「独立後、事務所を成長させるために何が重要なのか」といった、税理士や公認会計士が独立して会計事務所を成長させていく際にキーとなるノウハウを明らかにしていきたいと思います。
記念すべき第1回は、東京共同会計事務所の内山隆太郎先生にインタビューさせて頂きました。
内山隆太郎先生とは?
内山 隆太郎(うちやま りゅうたろう)
東京共同会計事務所 代表パートナー 公認会計士・税理士
経歴
1987年(22歳) 慶應義塾大学経済学部卒業、中央監査法人入所
1989年(24歳) 公認会計士開業登録
1990年(25歳) 中央クーパース・アンド・ライブランド国際税務事務所入所
1991年(26歳) 同事務所 マネージャーとなる
1993年(28歳) 税理士開業登録、東京共同会計事務所パートナーとなる
2013年 東京共同会計事務所 開業20年を迎える
今回、インタビューさせて頂いた内山先生は、慶應義塾大学在学中に公認会計士2次試験に合格。中央監査法人と中央クーパース・アンド・ライブランド国際税務事務所を経て、28歳で独立し、東京共同会計事務所を設立。ストラクチャード・ファイナンスの分野を中心に高い実績を残しており、2013年には開業20年を迎えておられます。
東京共同会計事務所とは?
設立:1993年8月
従業員数:130名(2014年5月1日現在)
事業内容:
- 会計・税務コンサルティング
- バリュエーション業務
- デュー・ディリジェンス及びその他の保証業務
- フィナンシャル・アドバイザリー業務
- ビークル管理業務
東京共同会計事務所はSPCを活用した資産証券化ビジネスの分野におけるパイオニアとして1993年に創業されています。ビークル管理を始めとしたストラクチャード・ファイナンス分野の税務・会計アドバイザリーにおいて高い実績を残しており、クライアントには国内外の大手金融機関や上場企業などが多数名を連ねます。
近年では「第二創業期」との位置づけで、FAS、企業再生、事業承継、国際税務といった分野の業務も拡大中。また、世界第7位の会計ネットワークであるRSM Internationalのメンバーファームでもあり、海外の専門誌*からも毎年、我が国におけるベスト・アドバイザーのひとつにランクされているなど、名実ともに日本のトップファームのひとつです。
*”2014 World’s Leading Transactional Fiems” 日本部門第2位グループ/”2014 World’s Leading Tax Firms” 日本部門第4位グループ<International Tax Review 誌>
内山先生に5つの質問!
では、このような会計事務所を創られた内山先生は、現在の東京共同会計事務所をつくるために何をされてきたのでしょうか?5つの質問をしてみました!
本シリーズでは下記の5つの質問にご回答頂きます。
- 勤務会計士時代はどんな公認会計士でしたか?
- 独立するための準備として何を行いましたか?
- 会計事務所を経営するにあたって重視してきたことは何ですか?
- 独立から今までで苦労したことや大変だったことは何ですか?
- 事務所が大きく成長するきっかけとなったことはありますか?
既に成功を納めているファームの所長のお話はこれから独立を志すみなさんにとっては遠い存在かもしれませんが、勤務会計士時代など、独立前後にも迫ってみたいと思います。
1:勤務会計士時代はどんな公認会計士でしたか?
監査法人では逆風からスタート!?
私の会計士としてのスタートは順風満帆というわけではありませんでした。
今となっては恥ずかしい限りですが、当時大学生で監査法人の内定者だった私は、大学時代に会計士試験に合格をして、いよいよ4月から入所するという3月に突然、監査法人に休職を申し出たのです。
実は、監査法人入所前に卒業旅行で初めて海外に行ったのですが、そこですごく英語が勉強したくなってしまい、海外のサマースクールに行きたいと思ったのですが、そうなると働いていては行くことができない。「じゃあ、休職できないかな?」と思って監査法人に頼みに行ったのです。後から考えると「なんて常識はずれのことをしているんだ…」と思うのですが、当時は大学生で会計士試験の勉強ばかりしていたので、そうゆう常識がわからなかったんですね。当然、「この新人は何を言っているんだ?」という感じで監査法人の方には呆れられ、怒られもしたのですが、最終的には就職をむりやり半年先に延ばすというかなりわがままな形で働くことになりました。
そうなると当然の流れで、今度は「この新人をどの監査チームに配属するのか?」ということが法人内で問題になってしまいました。入所前からそんな感じで注目されてしまったので、どのパートナーも引き取りたがらず、アサインが入らなかったわけです。自分の起こした行動から危うく居場所がなくなるところだったのですが、ひとり私の面倒を見てくれるとおっしゃってくれたパートナーがいて、そのパートナーのご好意のおかげで無事に会計士としてのスタートを切ることができました。そのパートナーと面倒を見てくれた上司には本当に感謝していますし、今でも親しくさせて頂いています。
大きな影響を受けた税務部門での仕事
3次試験に合格してしばらくした後に税務部門(中央クーパース・アンド・ライブランド国際税務事務所)に異動しました。税務部門に移ったのは、英語を使った仕事をしたかったためなのですが、この税務部門での仕事は自分にとって影響が大きく、結果として、その後のキャリアを決定づけることになりました。
監査部門でも仕事には一生懸命に取り組んでいたつもりでしたが、税務のほうがお客さんへの提案の余地が大きく、お客様と同じ目線に立って創造していく感じであったため、仕事の手応えも大きく感じられました。また、税務部門では自分のした仕事の請求書を自分で書いていたため、成果もダイレクトに感じられ、お客さんから報酬を貰うということの有難さと面白さを身を持って体験することもできました。これも自分にとってインパクトが大きかったと思います。
重視していた3つのこと
さてこの勤務会計士時代ですが、当時は実は独立したいとは考えていませんでした。将来やりたいこともあまりイメージできていなかったのが正直なところです。
ただ、仕事に関しては一生懸命取り組んでいて、その中で、意識していたものが3つあります。
(1)人的ネットワーク
(2)英語
(3)会計・税務のスキル
の3つです。
確信があったわけではないですが、どの進路を選ぶにしてもこの3つは重要になりそうだなと思っていました。あと、ちょっと打算的だとは思いますが、いつか外にでるのであればプロモーションして役職についておいたほうがいいのだろうなという感覚はあったので、マネージャーになることも意識はしていました。
2:独立するための準備として何を行いましたか?
留学予定から急遽独立の方向へ
前述のとおり独立しようとは考えていなかったため、事前の準備はあまりしていませんでした。
実は、当時、マネージャーへの昇格をきっかけに事務所を辞めて海外のビジネススクールに行きたいと考えていました。英語や経営の勉強をしたいというのもありましたし、そもそもビジネススクールに行っていろんな世界を見て自分のやりたい仕事を見つけようと思っていたのです。
ところが、いくつかのビジネススクールにエントリーしてみたものの、全部落ちてしまったのです。そうなると、社内では「ビジネススクールに行きます」と宣言しているので、だんだんと「内山はいつ行くんだ?」みたいな話になってきてバツが悪くなってきてしまいました(笑)。そんなときに師事していたといえるパートナー会計士の渡辺から一緒に独立しないかと誘われ、独立する方向へ気持ちが一気に傾いていきました。
資金はローン、オフィスはシェア、引継ぎはじっくりと
そのような経緯で急に独立する方向になっていったということもあり、特に独立資金を用意していたわけでもなければ、事前に戦略があったわけでもありませんでした。
そのため、資金の一部は会計士開業ローンなどの制度を利用して調達しましたし、サービスに関しては退職までの期間で「このお客さんはこのサービスを必要としてそうだな」「このサービスはこういったお客さんにニーズがありそうだな」など、仕事をしながら考えていきました。オフィスに関しては、日本橋にしましたが、独立するのであれば手伝って欲しいと言ってくれた同時期に立上げのベンチャーのお客さんがあり、そことシェアをして利用することになったため、少し広めのオフィスからスタートすることができました。
また、退職にあたっての引継ぎにはかなり時間をかけました。残っていた有給休暇も使わず半年以上の時間をかけて引継ぎを行った気概があります。これから独立する方には意識しておいて頂きたいのですが、独立するにあたってはやはり古巣との関係は大事です。当然、応援してくれる人もいるはずですが、残念ながらよく思わない人もいます。そこを小さくすべきです。また、自分の都合で独立するのにお客様に迷惑をかけるわけにはいきません。そう考えると退職にはどれだけ時間をかけてもいいと思います。私も早く辞めて独立開業までのつかの間をのんびりしたい気持ちもありましたが、引継ぎの際には一切手を抜きませんでした。100点ではなかったと思いますが、結果的にはそれが自分にかえってプラスに返ってきて、独立してから声をかけてくださったお客様もおられるなど、よりスムーズに独立のスタートを切ることができたように思います。
3:会計事務所を経営するにあたって重視してきたことは何ですか?
事務所のステージによって重視したことは違った
常に意識してきたことをあえて挙げるなら、ひとりあたりの売上高でしょうか。そこを適正にキープできていれば利益が確保できて、ひいては従業員の雇用も含め事務所を守っていけますので重要な経営指標として意識しています。また、反対に利益がなければ「攻めの投資」をすることもままならず、ビジネスの戦局はきわめて劣勢の窮屈な感じになってしまいます。
ただ、それ以外では、「これだけはずっと重視してきた」というものはあまりありません。事務所のステージによって課題やテーマが違うので、その時々に必要なことを重視して力を注いできたからです。
初期の頃はやはり売上や自分の技術を磨くことを意識していましたし、事務所が大きくなると採用や人材の定着に意識が移ってきました。また、どのようにして自分がプレーヤーから経営者に移っていくかということを意識していた時期もあります。特に、自分が現場を離れることに関しては、人材の成長状況なども関係してくるため、いきなりそうするわけにはいかず、完全に経営に専念できるようになったのはこの数年ではないでしょうか。それ以上に、何だかんだいっても自分は士業ですし、技術者としての自分に自負も強かったですから、プロである自分を捨てて経営に集中するようになるのには気持の上でも時間がかかりました。
4:独立から今までで苦労したことや大変だったことは何ですか?
お客様には恵まれた。でも、経営は失敗続きだったかもしれない。
一般的には、独立すると営業に苦労する人が多いのかもしれません。生意気をいうようですが、当事務所は、幸いなことにお客様には恵まれ、営業面ではあまり苦労はしませんでした。もちろん、証券化は金融機関など比較的大きな企業を相手にしていますので、初期の頃には「実績が無いために付き合えない」と仕事を断られることはありましたし、現場の担当者の方が決裁できる金額内でしか仕事を貰えないことも多かったので、仕事の単価がなかなか上がらないといった苦労はありました。
ただ、いいお客様に恵まれて、仕事も継続的に頂いていましたので、まじめにひとつずつ仕事をこなしていけば、それだけでも受注を拡大することはできました。他方、拡大する受注に対応するために組織を作っていかなければなりませんでしたが、その点にはとても苦労しました。
今振り返るとこの20年の経営は失敗続きだったと自分では思っています。間違いだらけの経営だったのではないでしょうか。
苦労した採用と人材育成
特に独立して5~6年目はとても辛かったのを覚えています。ちょうど売上が伸び始めた時期なのですが、受注は増えていくのに採用や育成が追いつかず、やっと人が増えてもそれ以上に仕事が入ってきて、また人手が足りなくなり従業員の教育も間に合わない…といった状況が続きました。まだ無名の会計事務所だったので、採用面では即戦力になるような優秀な人材の応募が少なかったですし、管理職としての経験も十分でないまま独立したのでスタッフの育て方も全くわかっていませんでした。
例えば、スタッフへの効果的な指導方法などもよくわかっていなかったので、自分では一生懸命教えているつもりが、親身に指導すればするほど熱が入ってしまいスタッフに怖がられたりもしました。ある時などは女性スタッフに教えていたら、私の教え方が怖いと泣かれてしまったこともありました。反対に、あまり指導や管理をせずにスタッフ任せにしてしまい、結果、彼らにプレッシャーのかかる状況に孤立無援で対応させてしまい立て続けに退職者を出してしまった時期もありました。スタッフにつらい思いさせていたのがわからなかったんですね。
仕事は増えているのにスタッフはなかなか採用できない、教育もうまく行かない、業務効率がよくないので事務所全体が疲弊し雰囲気も悪くなる…そういった状況ですと、自分自身でも「事務所の業務はうまくまわっているのか…」「どこかで事故やトラブルが起きていないか…」など、いろいろと不安になり、毎日、外出から帰ってきて問題が起きていないことを確認してはホッとするといった日々が続いた時期もありました。
そんな状況でしたが、諦めずにいろいろと試行錯誤をしてはおりましたので、たくさんの失敗もしながら、いつしか少しずつ改善していきました。そのうちに、事務所の知名度が上がり、いい人材も少しずつ採用できるようになり、2000年くらいからはゆっくりとですが事務所の力が上がっていったという印象です。
5:事務所が大きく成長するきっかけとなったことはありますか?
最初は鳴かず飛ばずだったSPCマーケット
事務所が大きく成長するきっかけとなったのは間違いなくSPCです。ただ、法改正の影響で急に業績が伸びたり、「これからSPCの時代が来る」と思って戦略的にこの分野を伸ばしたりしたというのとは実情は少し違います。どちらかというと、証券化はやや日の当たらない分野でしたが、この分野が好きだったので愚直に取り組んでいたら波に乗っちゃったというほうが正確かもしれません。
証券化分野に関しては、1994年に資産流動化法が施行されたのですが、実は97年までは証券化というのは鳴かず飛ばずで、本当に盛り上がってきたのも1999年あたりからでした。そんなこともあり、流動化法の施行当初は大手を中心にいくつかの会計事務所がこの分野に参入していましたが、しばらくするとあまりに仕事にならないので、ほとんどが撤退か縮小してしまいました。ただ、そのような状況でも当事務所は証券化業務をやり続けました。儲かりにくいとはいえ潜在的にニーズがあるのはわかっていましたし、それより何より、私自身も証券化業務が好きだったからです。
そういった状況でしたから、当時はお客様にも予算がなくほぼ手弁当で相談にのったこともあります。例えば、当時、大手証券会社のお客様がおられましたが、その証券会社でも証券化部門は花形ではなく、予算も少ない状態でした。証券会社の方々も苦しんでおられたので、当事務所としては先方の払える金額内で仕事を引き受けさせて頂きました。目の前で困っているお客さんの力になりたいというのもありましたし、何より、まだ事例の少ない分野をお客さんと一緒に苦労してやり遂げていくことが本当に楽しかったのです。結果、やり続けていた人がいなかったという、ただそれだけのことで、流動化の初期の頃の大型公募案件を落札するなどの実績を作ることができ、それにともなって自然とノウハウや人脈が蓄積され、証券化マーケットが拡大し始めた際に他社に先んじて波に乗って事務所を拡大させることができました。
独立を目指す税理士や公認会計士のみなさまにひと言
今の時代、独立も厳しくなっていますので、必ずしも独立に賛成というわけではないのですが、もし若くして独立を目指すのであれば下記の4つを私からのアドバイスとして送りたいと思います。
1:薄利多売を意識する。
現在は、高付加価値なサービスと安価なサービスの2極化が進んでおり、中間がない時代になってきています。若い年齢での独立は、スキル面でもまだ未成熟であり高付加価値・高額なサービスを提供するのは簡単ではないと思います。そのため、薄利多売を意識したサービスを考えるのがよいと思います。特に、ひとりで独立する場合などはネットをうまく使って多くの人や企業にアプローチしたり、多くの人や企業に同時にサービスを提供したりするのがよいと思います。
2:パートナーとは徹底的に話し合う。
ひとりではなく誰かと組んで独立するなら、パートナーとなる人間とは腹を割って、隠し事なく真剣かつ徹底的に話し合うべきです。ぶつかっても構いません。公認会計士や税理士には自分の本音を言わなかったり、ぶつかることを避けたりする人も多いと思いますが、そうではなく本音で真剣に議論しましょう。共同経営を成功させるにはこれはとても重要です。
3:組むべき相手は士業だけではない。
公認会計士や税理士は独立をする際に他士業と提携するケースが多いですが、士業以外とアライアンスを組むことも大切です。そして、最も組むべき相手は士業のサービスを自己のサービスに取り込んでサービスを作る企業で、かつ販売力の強い人たちです。わかりやすい例で言えば税務を切り口に自社サービスを販売している保険会社や不動産会社などが挙げられますが、もちろんそれらに限りません。独立したらなるべく早く戦略的に提携できる有力な相手を見つけ、それを梃子に受注拡大を目指すのがよいでしょう。
4:資本力を手に入れる。
以前はコツコツやっていれば成功できた時代でしたが、今は仕掛けを作り、戦略的に動かなければ成功を勝ち取るのが難しい時代です。そして、そのためには先行投資が必要です。先行投資ができないとマーケットで一足先に陣取りができず、競合相手に有利にビジネスが展開できません。ビジネス拡大意欲の大きい人たちであれば、ビジネスが回り始めたらなるべく早いタイミングで資本力のある相手と組むなどして、資本力を活かして勝つための仕掛けを作っていくことをお勧めします。
内山先生、ありがとうございました!
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引用元:東京共同会計事務所をつくるために行った5つのこと:内山隆太郎氏 –公認会計士の独立・開業ケーススタディ(1)-(公認会計士ナビ)