近年、東京、大阪などの大都市圏を中心にタワーマンションの建設が盛んですが、東京都内などでは高層階が数億円にもなるものも見られるなど、「そんな高いマンションどんな人が買うの!?」と思われている人も少なくないでしょう。
実は資産家の人たちの中には、タワーマンションを購入することによって節税を行っている人もいるのです。
今回は「なぜお金持ちがタワーマンションを買うのか?」を「節税」の側面から解説します。
まずは相続税と節税の仕組みを確認
タワーマンションの節税効果を説明する前に、まずは相続税とその節税の仕組みを簡単に解説しておきましょう。
まず、相続税が発生する場合、被相続人(資産を譲る側)の財産の価格は、財産評価基本通達によって決められます。これを相続税評価額と呼びます。
この相続税評価額が高いほど、相続税も高くなり、評価額が低いほど相続税額は低くなります。そのため、相続を考える人は、相続が発生する前に「相続税評価額を低くしておこう」と考えるわけです。
その際、現金ですと相続税評価額は「金額=相続税評価額」*となりますが、土地や建物、株など“時価”のあるものは、財産評価基本通達によって定められた基準によって評価額が決められることになります。
*基礎控除など細かい条件がありますがここでは省略します。
そのため、土地や建物などの場合、「時価は高いけど、相続税評価額は低いもの」を所有していることによって、財産を低く評価し、ひいては相続税額も低くすることができるのです。
タワーマンションは高層階がお得!?マンションの「相続税評価額」とは
マンションの「建物」はどう評価されるか
では、なぜタワーマンションを購入すると節税になるのかを詳しく見てみましょう。
マンションの評価は、「土地」と「建物」とを分けて別々に評価されるのですが、まずは「建物」の評価から見てみます。
建物の相続税評価額は自分の居住用として利用する場合には、固定資産税評価額と同額になります。固定資産税評価額は一般的には建築費の50%から70%程度であり、建物についても階層や向きに関係なく相続税評価額は同額となります。
マンションの「土地」はどう評価されるか
それでは、土地の評価はどうでしょうか。
マンションを購入した際の「土地」とは、登記簿謄本に記載されている「敷地権」というもので、持ち分はマンションの専有部分の面積で按分されることとなっています。
そのため、戸数の少ない小規模なマンションと比べて、タワーマンションでは、土地面積に対して戸数が多いため、1戸あたりの土地の持ち分が小さくなり、土地の評価額が低く抑えられることになります。
つまり、一定の広さの土地を多くの人で分け合うので、タワーマンションのほうが一戸建てや小規模なマンションよりもひとりあたりの持ち分が少なくお得になるわけです。
また、マンションや不動産選びに慣れた人なら気づいたかもしれませんが、実際にマンションが販売される場合、その価格は、相続税評価額のように「面積だけ」では決まりません。
例えば、「南向きの部屋」と「北向きの部屋」は同じ面積であったとしても当然、「南向き」のほうが高くなりますし、同じ面積の部屋でも「高層階か低層階か」によって価格が異なってきます。
「高層階」の部屋で相続税評価額を圧縮!
評価額の低い物件を購入することによって資産を「圧縮」できる
分かりやすくするために少し例を挙げて説明したいと思います。
例えば、下記のような物件があったとします。
・物件A:40階、南向き、70㎡、分譲価格8,000万円
そして、この物件Aの相続税評価額が1,600万円であったとします。
この場合、ある資産家が8,000万円の現金を資産として持っていたとすると、そのままですと
「8,000万円の●%を相続税として払ってください」
となるわけですが、この8,000万円で物件Aを購入することによって資産は1,600万円にまで圧縮され、
「1,600万円の●%を相続税として払ってください」
ということになるのです。
※具体的な相続税の計算はもっと複雑ですがここでは分かりやすくするために上記の表現をさせていただいております。
一般的に、マンションの相続税評価額は、販売価格よりも低くなることが多いですので、お金の余っている資産家であれば、その現金でマンションを購入することによって財産を圧縮することができるわけです。
なぜ「高層階」がお得なのか?
では、もうひとつの例を見てみましょう。
下記2つの部屋があるとします。
① 物件A:40階、南向き、70㎡、分譲価格8,000万円
② 物件B:3階、北向き、70㎡、分譲価格4,000万円
両物件の内装や設備は同じなのですが、マンションを購入する消費者の立場からすると、物件Aの方が高層階ですし、南向きでもあるので価格が高くなるのは感覚的にも理解して頂けるでしょう。
ところが、相続税の評価においては、物件Aと物件Bは面積も建築費も同じなので相続税評価額は同額となります。
例えば、物件Aと物件Bの相続税評価額がともに1,600万円であったとすると、物件Aでは8,000万円の部屋が1,600万円の財産として、物件Bでは4,000万円の部屋が1,600万円の財産として扱われるわけです。
そのため、ある資産家が8,000万円の現金を資産として持っていたとすると、先の例と同じく、この8,000万円で物件Aを購入することによって資産は1,600万円にまで圧縮されます。
一方で、同じ8,000万円で、4,000万円の物件Bをふたつ購入した場合にはどうなるでしょうか?
その評価額は、1,600×2=3,200万円となり、同じ8,000万円で物件Aをひとつ買った場合の2倍となります。
【資産8,000万円の場合】
① 物件A(40階、南向き70㎡、分譲価格8,000万円)をひとつ購入
⇒相続税評価額:1,600万円
⇒8,000万円の財産が1,600万円(20%)に圧縮!
② 物件B(3階、北向き70㎡、分譲価格4,000万円)をふたつ購入
⇒相続税評価額:1,600万円×2=3,200万円
⇒8,000万円の財産が3,200万円(40%)に圧縮!
このように、タワーマンションの「高層階だと値段が高くなる」という特性を利用することによって、相続税評価額を圧縮することができ、タワーマンションは価格の高い高層階の物件を買ったほうがお得となるわけです。
油断は禁物、税務署から否認されるケースも!
こういった話をすると目から鱗のような節税策だと思われる人も多いと思いますが、この対策を使ったものの税務署から否認されるケースも出ていますので、そのケースを簡単に説明します。
Aさんは、資産家の父から約3億円のタワーマンションを相続しました。相続税評価額は5,800万円になったため、その金額で相続税の申告を行いました。しかし、納税した後に税務当局から、そのマンションについて購入時の価格の約3億円で申告し直すように求められました。
これはどうしてでしょうか?
相続財産は前述のとおり、通常は財産評価基本通達に基づいて評価しますが、この通達によらないことが正当として是認されるような特別な事情がある場合には、評価基本通達によらず、他の合理的な方法によって評価することが定められています。
実は、このケースでは、Aさんの父は認知症で、マンション購入の手続きはAさんが代理に行っていました。また、父名義でマンションを購入した後、2ヶ月後に父が亡くなり相続が発生しました。Aさんはそのマンションに居住もせず、また賃貸にも出さずに約4ヶ月後に売却を依頼し、その5ヶ月半後には購入時とほぼ同額の約3億円で売却しました。
税務当局は、「マンションの購入から相続や売却までの期間が短いこと」や「認知症の父の判断能力を悪用した可能性があること」「購入したマンションを自分では全く利用していないこと」などの事実関係から、“財産評価基本通達に基づきこのマンションを評価することは納税者間の実質的な租税負担の平等を害することになるため、このケースでは相続時における時価は購入時の価格と同程度と考えられる”という結論になり約3億円で評価されることになったという事案です。
(ストレートな表現をすれば、税務当局は「A氏は相続税を圧縮するためだけに、使いもしないマンションを購入して、転売したと思われるので、今回のケースでは節税は認めませんよ」と判断したのです。)
このように、相続税を下げるためにいろんなスキームを組んではみたものの結局は策に溺れるという結果に陥ってしまうことがあります。このことはタワーマンションスキームだけの話ではなく、法の網の目をくぐるようなグレーゾーンの節税スキームに共通して言えることです。また、相続税を抑えることだけに目が向くことも後々相続人同士のトラブルを招きかねません。
2015年1月より、いよいよ基礎控除額の縮小や最高税率の引き上げが行われます。
これにより、従来は企業経営者や地主などに限られた富裕層だけの問題であった相続税が都市部に持ち家を所有する一般家庭にまで広がることになります。
より多くの人にとって相続が身近なものになることによって、今まで以上に情報が溢れかえることと思いますが、自分の家族にとってどの方法が一番幸せになる方法かよく考え、バランス感覚をもって対策に臨むことが重要になると言えるでしょう。
<参考文献>
- タワーマンション節税!相続対策は東京の不動産でやりなさい 沖有人著
- 週刊東洋経済 2014年 8/9-8/16合併号 特集:親と子の相続
- 週刊エコノミスト 2013年12月17日号 特集:節税と脱税の境目